実効性に乏しい豊洲市場土壌汚染追加対策の再考を促す小池知事への申入書

東京都知事 小池百合子 様

 

   実効性に乏しい豊洲市場土壌汚染追加対策の再考を促す申入書

 

                           2017年7月14日

        畑 明郎(日本環境学会元会長・元大阪市立大学大学院教授)

        坂巻幸雄(日本環境学会元副会長・元通産省地質調査所)

        ○水谷和子(一級建築士) 連絡責任者

        各務裕史(元岡山県農林水産総合センター農業研究所副所長)

 

 2017年6月11日の「豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議(以下、専門家会議)」は、傍聴者との質疑中に一方的に会議を打ち切り、豊洲市場の土壌汚染追加対策を強行決定した。これを受けて6月20日に、小池知事は「豊洲移転、築地再開発」を表明した。つまり、豊洲地下の追加対策により、地上の安全は確保できると判断し、6月22日の「豊洲移転に関する関係部局長会議」で追加対策工事の実施を正式に決めた。しかし私たちは、この追加対策には多くの問題点があり、豊洲での食の安全・安心は確保できないと考える。問題点を下記に示すとともに、小池知事に以下の申し入れをする。

 

1 汚染実態の究明を放棄した無謀な追加対策

 現在提案されているのは、汚染物質の実態(深さ・場所・量・土質など)を明らかにしないままの無謀な追加対策である。

 汚染物質の実態が分かればより効果的な案、より簡便な案の立案ができるが、追加対策は除去すべき汚染物質の実態を把握しない拙速、無謀な策と言わざるを得ず、市場関係業者の納得も得られないばかりか、責任ある安全宣言の表明も困難である。

 

2 砕石層の透水係数が土壌並みと判明し地下水位の平準化は不可に、

    汚染水上昇は現実となる

 都は、砕石層の透水係数が10のマイナス3乗cm/秒(土壌並み)のオーダーであることを明らかにした。この数値は通常の砕石の2~3桁も小さい値であり、砕石層として期待された毛細管現象の遮断にも、地下水位の平準化にも、排水促進にも寄与しないことが明確となった。「排水による地下水位低下は極めて重要である」とした駒井委員の発言によれば、現状から考えられる対策は、もはやなきに等しい。

 さらに、地下ピット内ではAP2.0m辺りの深さから相当量の揚水を続けており、深部の地下水汚染が予想以上に早く表層に到達する危険も抱えている。

 

3 コンクリート床の基礎杭への悪影響

 基礎杭の検定比は杭ごとに0.86~1.00の範囲にあって(1を超えると違法)、全く余裕がないために荷重増加となる増築は、地上部はもちろん、地下部にも行えない。コンクリート床の打設においては、擁壁や基礎杭との間に隙間を設けなければならないので、有害ガスの侵入防止は損なわれ、地震時の床と構造部との干渉問題なども発生し、論外である。

 

4 コンクリート床へかかる水圧の大きな問題

 都は、コンクリート床への地下水圧は2016年12月の地下ピット内水位約20cmの想定で、浮力よりコンクリート床の方が重いので浮上はないとしたが、砕石層の透水係数が小さいために地下水の移動が少ないだけであり、建物外からの地下水圧自体は水頭で100cmぐらいあるので、コンクリート床で締め切れば床は必ず浮上する。

 また、地下水位に変動があるたびにコンクリート床への地下水圧も変動し、コンクリート床取り付け部の剥離やひび割れが生じる。わずかな隙間やひび割れが生じれば、ただちに地下に溜まったベンゼンや水銀などの有害ガスが地下ピットに侵入する。

 コンクリートは数年でひび割れが生じるので点検・補修が欠かせない。「専門家会議」の提案では、コンクリートよりも遮蔽シートの方が有害ガスの侵入を防止できるとしたが、都は工期が8か月(遮蔽シートは22か月)と短く、工事費が15~20億円(遮蔽シートは50~55億円)と安いコンクリートを選んだ。国内に実績のない遮蔽シートの実効性にも疑問は残るが、これは典型的な「安かろう、悪かろう」の対策である。

 

5 強制換気の問題点

 強制換気すると、地下ピット内が負圧となり、地下からベンゼンや水銀が揮発しやすくなる。また、換気に当たっては有害ガスの浄化が必要であるが、安全性を議論できる具体的なデータは、未だに提示されていないので、評価ができない。

 

6 非現実的な揚水強化対策

 現実の地下水位が計画よりも1m程度も高いにもかかわらず、地下水管理システムによる揚水量は計画量の10分の1にとどまっている。追加対策は、この原因究明を行わず、ポンプの種類変更、井戸の洗浄強化、観測井戸の揚水井戸化、地下ピット内への揚水ポンプ設置などを提案したもの、それぞれは試行錯誤的なものにすぎない。 

 加えて、透水係数が通常の砕石より2~3桁も劣る10のマイナス3乗cm/秒オーダー(土壌並み)の廃コンクリート破砕物でできた導水機能を有しない砕石層のもとの対策であることを考慮すると、実効性に乏しい非現実的な揚水強化策と言わざるを得ない。

 

7 地下ピット内地下水の直接排水は不可能となる

 地下ピットにコンクリート床を設置し揚水を強化する対策では、揚水量が圧倒的に不足することが予測される。公表された2017年5月までのデータを集計すると(別添資料参照)、地下ピットに溜まった地下水を直接排水した量は31,500㎥に及び、揚水井戸から汲み上げて放流した量33,600㎥に近い。砕石層は地下ピット内外に連続して敷き詰められているため、雨水で増加した敷地内地下水が地下ピットに流入し、結果的に地下ピットは貯水タンクの役割を果たしていた。地下ピットにコンクリート床を全面に敷いてしまえば直接排水は不可能で、貯水タンクの機能を失うことになる。専門家会議は、地下ピット内の砕石層下部にある格子状砕石層のAP1.5mに揚水ポンプを設置すると提案するが、砕石層や下部土壌の透水性が低いことから、地下ピットからの直接排水に代わるものではなく、地下水位の低下が一層困難となる。

 また今回、揚水強化対策に20~25億円と試算されているが、井戸の目詰まりが揚水能力の減少の主な原因であれば、毎年継続して出費することとなり、さらに地下ピット排水相当分の井戸増設も含めれば毎年の経費は増え、揚水強化案が現実的な対策ではないことがわかる。

 

8 地下ピット外周壁は無対策

 地下ピットに対する地下水やガスの侵入を防ぐ対策は、今回床部分について触れているだけである。一方、地下ピット外周壁は土留めの擁壁に過ぎず、気密性は小さく、地下水やガスの侵入を防げない。地下空間の気密性を確保するためには、地下ピット外周壁は建物本体の構造と一体の壁でなければならない。

 

9 汚染除去は容易でない

 汚染の実態が明らかにされなかったため断定はできないが、多くの場合に汚染物質の量は地下水中よりも土壌中にはるかに多い。たとえば、イタイイタイ病を起こした神岡鉱山の工場では、汚染地下水を20年以上汲み上げ続けてきたが、一向に地下水がきれいにならない。過去の実績などからは、汚染土壌を掘削除去しない限り汚染地下水の完全浄化は困難である。

 

10 まとめ

 「専門家会議」の提案は、汚染物質の残置を認めたうえで、その実態を明らかにすることなく、地下ピットのコンクリート床、強制換気、揚水強化などの追加対策を提案したものである。どれも試行錯誤な対策であるばかりか、さらに無駄な出費を強いる可能性の高い、無責任な提案と言わざるを得ない。

 また、「専門家会議」において、地下水2年間モニタリング中止の案が示されたこと、地下水2年間モニタリングの「再採水」問題の聞き取り調査が不十分なまま中断されたことなど、地下水汚染問題の究明を放棄した部分も多く問題である。これらは引き続き検証されるべきである。

 この際、貴職におかれては、豊洲市場への移転中止と築地市場の機能保全・再整備を最重点課題として、早期に熟慮英断されることを求めたい。

                                以上

専門家会議が提案した豊洲市場土壌汚染対策に対するコメント

                        2017年6月14日 

             各務裕史(元岡山県農林水産総合センター農業研究所副所長)

             畑 明郎(日本環境学会元会長・元大阪市立大学大学院教授)

             坂巻幸雄(日本環境学会元副会長・元通産省地質調査所)

             水谷和子(一級建築士・公金返還請求住民訴訟原告)

 

1.汚染実態の究明を放棄した無謀な対策案

 汚染原因を明確にしない、つまり、汚染実態(深さ・場所・量・土質)を明らかにしないままの無謀な対策案である。汚染実態が分かればより簡便な案がある可能性もあるが、一方で実態から汚染を基準値以下にすることが事実上不可能であるならば、「建物ができている現状では、汚染を除去することが不可能である」旨の提言にもなる可能性があった。 

2.砕石層が盛り土とみなせるか

 豊洲の砕石層は、汚染地下水が毛細管現象により上部の盛り土層へ上昇することを遮断するために設けられたものであり、盛り土ではない。

 土壌汚染対策法ガイドラインでは、砕石を盛り土材料とすることができるとするが、水銀、シアン、ベンゼンなどの揮発性物質や汚染地下水については、砕石層は遮蔽効果がないので、豊洲の砕石層を汚染物質の拡散を防止する盛り土とはみなせない。

 3.砕石層の土壌並み透水係数が判明し、地下水位の平準化は不可能に、汚染水上昇は現実となる

 都が砕石層の透水係数が10のマイナス3乗(cm/秒)のオーダーであることを明らかにした。この数値から砕石層が土壌並みに透水性が劣るものであることが判明し、毛細管遮断にも、地下水の平準化にも、排水促進にも寄与しないことが明確となった。「排水による地下水位低下は極めて重要である」とした駒井委員の発言を尊重すれば、もはや対策はないに等しい。

さらに、地下ピット内ではAP2.0m辺りの深さから多量の揚水を続けており、深部の汚染が予想以上に早く表層に到達する危険も抱えている。

 4.底板コンクリートの基礎杭への悪影響

 基礎杭の検定比は0.86~1.00(1を超えるとアウト)とぎりぎりの状態であり、荷重増加となる増築は地上部は勿論地下にも行えないので、コンクリート擁壁や基礎杭との間に隙間を設けることになるが、地震時の底板と構造部との干渉問題など十分な検討が必要である。

 5.隙間部における遮蔽シートの取り付け方法

 隙間部ではたるむ程度の余裕を持たせて遮蔽シートを張るとのことだが、このような特殊な施工例は国内にはないが、外国にもあまりないと思われ、小さな地震においてさえ起こる底板の振動による遮蔽シートの破れや剥がれが懸念される。

 遮蔽シートの特性として専門家会議は、「厚さ1.5mmのポリエチレンフィルムであって、外国にはそのような素材がある」と述べられただけで、カタログ値すらも示されないで終わった。一方国内では、十分な遮蔽性能を持つはずの管理型廃棄物処分場の底面遮水シートが漏水事故を起こした事例は、少なからず知られている。

「データをもとに適否を判断する」はずの専門家会議の不十分なデータに基づいた判断は拙速で危ぶまれる。

 6.コンクリート底板と遮蔽シートへかかる水圧の大きな問題

 都は、コンクリート底板への地下水圧は12月の地下ピット内水位約20cmの想定で、浮力より底板の方が重いので浮上はないとしたが、砕石層の透水係数が小さいために地下水の移動が少ないだけで、建物外からの地下水圧自体は水頭で100cmぐらいあるので、遮蔽シートで締め切れば底板は必ず浮上する。

 また、地下水位に変動があるたびに遮蔽シートへの圧力も変動し、遮蔽シート取り付け部の剥離が生じる。

7.非現実的な揚水強化策

 現実の地下水位が計画よりも1m程度も高いにもかかわらず、地下水管理システムによる揚水量は計画量の10分の1にとどまっている。この原因究明を行わないまま、ポンプの種類変更、井戸の洗浄強化、観測井戸の揚水井戸化、地下ピット内への揚水ポンプ設置などを提案したものであり、それぞれは試行錯誤的なものにしかすぎず、加えて、透水係数が10のマイナス3乗(cm/秒)オーダーで土壌並みに透水性の劣る廃コンクリートの破砕物でできた砕石層の下の対策であることを考慮すると、実効性に乏しい杜撰な揚水強化策と言わざるを得ない。

8.汚染除去は容易でない

 汚染の実態が明らかにされなかったため断定はできないが、多くの場合に汚染物質量は地下水よりも土壌中にはるかに多く、イタイイタイ病を起こした神岡鉱山の工場では、汚染地下水を数十年間汲み上げ続けても一向に地下水がきれいにならない実績などから、汚染土壌を掘削除去しないかぎり地下水の完全浄化は困難である。

9.まとめ

 専門家会議の提案は汚染残置を確定させたが、その実態を明らかにすることなく、地下ピットの底部遮蔽、換気、揚水強化などの追加対策を提案したものであり、どれもほぼ実現不可能な対策であるばかりか、無駄な出費になる可能性の高いずさんな提案と言わざるを得ず、都においては市場としての利用断念も視野に熟慮英断されることを求めたい。

注)公開質問状のURL

Diary in Second Life: 豊洲市場・土壌汚染対策等に関する公開質問状