専門家会議が提案した豊洲市場土壌汚染対策に対するコメント

                        2017年6月14日 

             各務裕史(元岡山県農林水産総合センター農業研究所副所長)

             畑 明郎(日本環境学会元会長・元大阪市立大学大学院教授)

             坂巻幸雄(日本環境学会元副会長・元通産省地質調査所)

             水谷和子(一級建築士・公金返還請求住民訴訟原告)

 

1.汚染実態の究明を放棄した無謀な対策案

 汚染原因を明確にしない、つまり、汚染実態(深さ・場所・量・土質)を明らかにしないままの無謀な対策案である。汚染実態が分かればより簡便な案がある可能性もあるが、一方で実態から汚染を基準値以下にすることが事実上不可能であるならば、「建物ができている現状では、汚染を除去することが不可能である」旨の提言にもなる可能性があった。 

2.砕石層が盛り土とみなせるか

 豊洲の砕石層は、汚染地下水が毛細管現象により上部の盛り土層へ上昇することを遮断するために設けられたものであり、盛り土ではない。

 土壌汚染対策法ガイドラインでは、砕石を盛り土材料とすることができるとするが、水銀、シアン、ベンゼンなどの揮発性物質や汚染地下水については、砕石層は遮蔽効果がないので、豊洲の砕石層を汚染物質の拡散を防止する盛り土とはみなせない。

 3.砕石層の土壌並み透水係数が判明し、地下水位の平準化は不可能に、汚染水上昇は現実となる

 都が砕石層の透水係数が10のマイナス3乗(cm/秒)のオーダーであることを明らかにした。この数値から砕石層が土壌並みに透水性が劣るものであることが判明し、毛細管遮断にも、地下水の平準化にも、排水促進にも寄与しないことが明確となった。「排水による地下水位低下は極めて重要である」とした駒井委員の発言を尊重すれば、もはや対策はないに等しい。

さらに、地下ピット内ではAP2.0m辺りの深さから多量の揚水を続けており、深部の汚染が予想以上に早く表層に到達する危険も抱えている。

 4.底板コンクリートの基礎杭への悪影響

 基礎杭の検定比は0.86~1.00(1を超えるとアウト)とぎりぎりの状態であり、荷重増加となる増築は地上部は勿論地下にも行えないので、コンクリート擁壁や基礎杭との間に隙間を設けることになるが、地震時の底板と構造部との干渉問題など十分な検討が必要である。

 5.隙間部における遮蔽シートの取り付け方法

 隙間部ではたるむ程度の余裕を持たせて遮蔽シートを張るとのことだが、このような特殊な施工例は国内にはないが、外国にもあまりないと思われ、小さな地震においてさえ起こる底板の振動による遮蔽シートの破れや剥がれが懸念される。

 遮蔽シートの特性として専門家会議は、「厚さ1.5mmのポリエチレンフィルムであって、外国にはそのような素材がある」と述べられただけで、カタログ値すらも示されないで終わった。一方国内では、十分な遮蔽性能を持つはずの管理型廃棄物処分場の底面遮水シートが漏水事故を起こした事例は、少なからず知られている。

「データをもとに適否を判断する」はずの専門家会議の不十分なデータに基づいた判断は拙速で危ぶまれる。

 6.コンクリート底板と遮蔽シートへかかる水圧の大きな問題

 都は、コンクリート底板への地下水圧は12月の地下ピット内水位約20cmの想定で、浮力より底板の方が重いので浮上はないとしたが、砕石層の透水係数が小さいために地下水の移動が少ないだけで、建物外からの地下水圧自体は水頭で100cmぐらいあるので、遮蔽シートで締め切れば底板は必ず浮上する。

 また、地下水位に変動があるたびに遮蔽シートへの圧力も変動し、遮蔽シート取り付け部の剥離が生じる。

7.非現実的な揚水強化策

 現実の地下水位が計画よりも1m程度も高いにもかかわらず、地下水管理システムによる揚水量は計画量の10分の1にとどまっている。この原因究明を行わないまま、ポンプの種類変更、井戸の洗浄強化、観測井戸の揚水井戸化、地下ピット内への揚水ポンプ設置などを提案したものであり、それぞれは試行錯誤的なものにしかすぎず、加えて、透水係数が10のマイナス3乗(cm/秒)オーダーで土壌並みに透水性の劣る廃コンクリートの破砕物でできた砕石層の下の対策であることを考慮すると、実効性に乏しい杜撰な揚水強化策と言わざるを得ない。

8.汚染除去は容易でない

 汚染の実態が明らかにされなかったため断定はできないが、多くの場合に汚染物質量は地下水よりも土壌中にはるかに多く、イタイイタイ病を起こした神岡鉱山の工場では、汚染地下水を数十年間汲み上げ続けても一向に地下水がきれいにならない実績などから、汚染土壌を掘削除去しないかぎり地下水の完全浄化は困難である。

9.まとめ

 専門家会議の提案は汚染残置を確定させたが、その実態を明らかにすることなく、地下ピットの底部遮蔽、換気、揚水強化などの追加対策を提案したものであり、どれもほぼ実現不可能な対策であるばかりか、無駄な出費になる可能性の高いずさんな提案と言わざるを得ず、都においては市場としての利用断念も視野に熟慮英断されることを求めたい。

注)公開質問状のURL

Diary in Second Life: 豊洲市場・土壌汚染対策等に関する公開質問状